内幕隼
うちまくはやぶさ。東京の刑事さん。妖怪嫌われ体質以外はいたって普通な公務員。あと感性が若いのか、年端もいかない少女達となんか仲良くなる。ちなみに実家はインテリビレッジと呼ばれる超高級ブランド田舎にある酒造所。
菱神艶美
ひしがみえんび。謎の女子中学生で、自称フリーランス。いわくありげな殺人事件の現場にふらりと現れる推理マニア。
過去に言動やファッションなどで黒歴史あり。また『菱神の女』の一員で、その才能が開花すると地球人類の四分の一が死滅するのだとか。
午後九時一〇分~九時二〇分
【隼の手帳】
・収斂が死んで得するのは誰? 占いに振り回されて株価を操られていた企業側か、ワンマン経営で仕事を回してもらえない星見家の子供達か。
・自分が槍玉に上げられるのを嫌った導入が、周りのゴシップをばらまく。
・初友鳴は大企業幹部の隠し子を名乗っているが実際にはブラフで、企業の看板イメージを汚すために依頼を受けていた。
・八井敏は自分の『八井商事』と『松島建設』の合同公共事業で手抜き工事が行われている事は知っていたが、どちらの会社が主導したのか知りたかった。
・松島涼は自分達が手がけた道路に誰がマネキンを埋め、どんな糾弾をしたがっているのかを知りたかった。
・豊川龍は『トヨカワ自動車』製品による死亡事故が車のせいなのか道路のせいなのか決着をつけたかった。
隼
「だんだんややこしくなってくる訳だ」
艶美
「せっ、殺生な……。でも情報をまとめてみれば、別段人を殺すほどの理由じゃない正義の人もいるよね。
収斂の占いが口八丁で株価操作する『だけ』のものなら、誰にも言えない秘密を覗かれる心配はほぼない。これまでの流れとは逸れているかなー?」
隼
「というか、こういう暴露合戦で当人が得する事は何もないんだよなあ」
艶美
「無関係の人からも印象悪くなるし、仮に大企業組に犯人がいたら」
隼
「余計な事をしゃべられない内に……もありえる」
午後九時二〇分~九時三〇分
【隼の手帳】
・全員一箇所に集まるか、全員バラバラの部屋に閉じこもるか。意見が分かれる。
・結局、あらゆる壁、床、天井が透明な館の中ならどちらでも相互監視はできるから問題ないと結論。集まりたい人はリビング、離れたい人は寝室に向かう事に。
【えんびめも】
・八井敏とか豊川龍とか大部分は寝室に。
・刑事さんと艶美ちゃんはリビングに残った。 → 実はドキドキ。
艶美
「これが良くある館モノとは違うトコだよね。どっちでも同じとか普通ありえないし」
隼
「ただ、この丸見えの環境で犯人は誰にも知られずに収斂を殺害している。油断は禁物だ」
午後九時三〇分
【隼の手帳】
・夜は冷える。
・ひとまず自分の毛布を艶美に譲る。
【えんびめも】
・えっ、何これ? こいつ私に惚れてるの???
隼
「……お前さあ」
艶美
「いっ、色々制御が効かない時もあるんだよ! 女の子には!!」
隼
「今までどんだけ飢えてきたんだ。砂漠の水一杯じゃないんだから」
艶美
「と、ととととにかく、相互監視も暇なので、眠気覚ましの意味でも思考実験に。そもそも壁が全部透明な透輝館の中で殺人事件なんて起こせるのかな?」
午後九時三五分~一一時
【隼の手帳】
・思考実験の話し合いを始める。
【えんびめも】
・本当に犯人は玄関ホールにいた?
(収斂が玄関の扉を開け、犯人が外からクロスボウで撃った可能性。その後、鍵束を盗んで外から鍵をかける。完全な第三者、外部犯説)
・本当に犯人はいた?
(収斂が自分で自分の胸に矢を刺した可能性)
艶美
「可能性はいくつかあるけど、若干無理があるよね。外からクロスボウで撃つなら館の中からクロスボウを盗むのは困難になるし、収斂の自殺にしたってその瞬間は目撃されちゃう」
隼
「でも、壁が全部透明な館の中でコソコソ動くのも難しそうだ」
艶美
「光の屈折とかガラスの特性とか色々話し合ったけど、これだっていうアイデアは出てこなかったかな」
隼
「他にも、収斂殺しとは直接関係ない話もしたっけな」
艶美
「クロスボウが盗まれた、あるいはそう主張した時点で計画犯罪。毎日収斂が決まった時間とルートで戸締まりをしていたなら待ち伏せだってできる。……だけど実は、今回のケースはかなり偶然要素も強いんだよね」
隼
「例えば、トンネルの崩落や嵐がなかったらどうなってた?」
艶美
「そもそも私や刑事さんが顔を出したのだって予定にない」
隼
「もしも綿密に立てた計画なら、この時点で手を引いて、次のチャンスを待っても良いはずだ」
艶美
「でも犯人は強行した。だとするとスケジュールの延期は認められないか……」
隼
「偶然に見えるものにも仕込みがあるかもしれない、って事になってくる」
午後一一時~午前〇時
【隼の手帳】
・思考実験もアイデアが尽きる。
・眠気に抗うため、艶美と二人で世間話に興じる。
・互いの身の上話に。
・艶美の口から『菱神の女』の話が出る。
・艶美は自分が常に事件の中にいると信じている。ただ配役は選べるので、自分が推理する側に回れば、少なくとも自分が殺す側には回らずに済むのだとか。
・感想は半信半疑。というか、艶美が殺しに詳しかったとしても、その力を使って事件の早期解決を望むなら、それはただの善人でしかないのでは。
【えんびめも】
・やべえ話し過ぎた!
・でもまあ、こう言ってくれるなら良いか。
隼
「何気に意味深な事言ってるんだなあ」
艶美
「ていうか刑事さん聞き上手だよね。ほとんど私の事だけじゃん!」
隼
「……あと困った事にデレてるな。明確に」
艶美
「うるせえな! こんなの初めての気持ちだから制御の仕方が分からなかったんだよ!!」