内幕隼
うちまくはやぶさ。東京の刑事さん。妖怪嫌われ体質以外はいたって普通な公務員。あと感性が若いのか、年端もいかない少女達となんか仲良くなる。ちなみに実家はインテリビレッジと呼ばれる超高級ブランド田舎にある酒造所。
菱神艶美
ひしがみえんび。謎の女子中学生で、自称フリーランス。いわくありげな殺人事件の現場にふらりと現れる推理マニア。
過去に言動やファッションなどで黒歴史あり。また『菱神の女』の一員で、その才能が開花すると地球人類の四分の一が死滅するのだとか。
午前一一時一五分~一一時三〇分
【えんびめも】
・標的を絞る。
艶美
「情報をまとめてみよう、刑事さん。まず凶器は導入のコレクションのクロスボウ。これは今回初めて館に来た私達や大企業組の手で盗み出すのはほぼ不可能だと思う。クロスボウがあるなんて知らないし、よしんば人伝てに耳にしていたとしても、具体的に盗み出す計画なんて立てられない」
隼
「クロスボウを盗んだ犯人が星見家サイドとして、当主の収斂、長男の導入、あとメイドの恋も死んでしまった」
艶美
「残るは夫人の明逢か、長女の看破。でも車椅子生活の看破には重たい家具を動かして死角を作るのは無理。シャワーの件から包帯執事の狩場と仲が良くて共犯関係にあるって線は……やっぱり厳しい。というより、狩場が犯人側ならもっと効率の良い方法はいくらでもあるもん。例えば、食事に毒を盛るとかね」
隼
「だとすると、あとは一人」
艶美
「夫人の明逢。これしかないかな。
メイドさん襲撃後にシャワー浴びてるんだけど、返り血とかを恐れたのかも」
隼
「何でこんなイレギュラーな来客が多い時に、って思ったけど、逆だったんだ。ある程度容疑者の頭数を揃えないと、すぐに自分に疑いの矛先が向くって分かっていたから……」
艶美
「それに、明逢が犯人ならうってつけの罠が一つ用意できそうなんだ」
午前一一時三〇分~午後〇時
【隼の手帳】
・艶美、全員に地下の座敷牢と妖怪・刑部姫について暴露する。
・今までノーマークだった刑部姫に疑いを向ける。
・占いの源である刑部姫を何とか庇おうとする明逢だが、対して看破は冷笑。
・刑部姫はどうでも良い。ただ化け物を飼って未来を教えてもらっているというブランドがあればどんなハッタリでも通用する。ここで刑部姫が死んでも、別の妖怪を調達すれば良い。そんな事も分からないからあなたは外様なのだ、と。
・みんなで刑部姫を倒しに行こう、それで騒ぎが治まればヤツが犯人だった事になる。各々武器を探したら玄関ホールに集合だ!
【えんびめも】
・おらおら煽るぞ! みんなついてこい!!
隼
「モノホンの陰陽師でも出てこない限り、妖怪そのものを倒す事なんかできないんだけどな。そして星見家はそういう感じでもなさそうだ」
艶美
「艶美ちゃんの担当が『対妖怪』じゃなくて命拾いしたな、ずばし! でも、だから囮に使えたんでしょ。ただこうなると、犯人としては疑いを他所にそらすしかなくなる。導入の自殺でパッタリやめるはずが、続けなくちゃならなくなる」
隼
「しっかし、何でまた明逢はそこまで刑部姫を守ろうとする。地下を知らなかったって事は一度も見た事ないんだろ」
艶美
「家族に隠し事は不要。一族が一つの塊になる事で過去から未来まで見通す力を高める。
新しい家族に馴染めなかった明逢からすれば、刑部姫って最大の秘密を共有できる事が家族参入の証明なんだよ。
……だから、証明書を絶対破かれちゃ困るんだ。自分が『秘密を知る一族』の一員になって、家族として認めてもらうには」
隼
「ヤツはどこで刑部姫の存在を知った? 一度も見た事ないくせに」
艶美
「さてどうかな。文献くらいはあったかもしれない。明逢は私達を閉じ込めるためにトンネルの道祖神を操作している。それが元々何のためのものかを仄めかす情報があったのかもね」
隼
「でも待てよ、明逢が真っ先に狙いそうなのは」
艶美
「何かと辛く当たってくる長女の看破。しかも刑部姫は切り捨てて構わないとまで豪語している。皮肉だね、家族の証明が欲しくて戦って、結果誰も残らないなんてさ」
午後〇時~一時
【隼の手帳】
・艶美は俺と別行動を提案。
・艶美は地下の出入り口を上から塞ぐ、重たい家具を調達したいらしい。
・一番怖いのは、パニックに陥った『彼女』が計画を放棄し、一人で外に逃げてしまう事。鍵束の存在があるため、外から施錠されると全員閉じ込められる。
・一方で、『彼女』は地下通路に入った事はないため、内部構造は知らない。刑部姫と一緒に地下から逃げられると思い込んでいるなら、行き止まりの地下通路に誘い込めば袋のネズミにできる。
艶美
「ここ、さっきと言ってる事が違う点に注目。刑部姫が軸だったはずなのに、ここでは人間の犯人が持つ鍵束になってる」
隼
「つまり、お前がブラフを使った訳だ」
艶美
「いや正直に言うとさ、人を信じて計画立てるより疑って立てる方が楽だったんだよ。
見通しの良い玄関ホールに、たとえ誘い込めたとしても長い地下通路。明逢のエモノがクロスボウなら致命的じゃん。
すぐに騙されているって気づくって。
で、それでも構わなかった。ハナから看破を守れって頼んでも裏切るかもしれない。だけど自分で選んで楽な方を取った事にさせちゃえば、誰も不満を覚えないんだからさ」
隼
「実際、齟齬に気づいて疑い始める連中も多かった。八井敏とか松島涼とかな。元々子供の意見で、しかも妖怪が犯人だの人間が犯人だの言っている端から破綻しているんじゃ仕方ないけど」
艶美
「ええと、一応話しておくけど計画通りだよ? 今回のトリックだと、複数の部屋の壁際に家具を置いて、一列重ねて見ると一面の壁が埋まってしまう、っていう感じなんだから。視点をバラバラにして、初友鳴とか豊川龍とか、とにかくみんなで相互監視させれば実は封殺できる。そのためにはみんなギスギスさせて、私を疑うくらいでちょうど良かったんだよ」
隼
「つまりわざと信用を失えば、みんな狙い通りに言う事を聞かなくなってくれる。だからこそ想定通りの配置に自然とついてくれる、と」
艶美
「そゆこと。自滅覚悟で真正面からクロスボウ持った明逢に突撃しなくても、彼女が悠々と地下に潜ったトコで扉の上からタンスでも置けば閉じ込められる。これだと鍵束を取り返せないけど、水も食糧もない明逢との我慢比べなら怖くないしさ」
隼
「で」
午後一時
【隼の手帳】
・他のメンバーは誰も来ない。
・俺はたった一人、言われた通りに玄関ホールの近くで明逢を待つ。
~~~―――
(以下は事件後の記述)
・明逢にクロスボウで撃たれる。
・明逢は俺を排除した後、地下通路へ。
艶美
「頭が痛かった。どうして騙されているって分かって、愚直に貫くかね」
隼
「お前の動きが読めなかった。看破と刑部姫、明逢のご褒美は二つあって、お前が安全な看破の方を取りたいならそれで良い。俺がそっちに向かったら危険を呼び込む羽目になる。それに」
艶美
「それに?」
隼
「お前に頼まれた。おかげで犯人の手から一人守れた」
艶美
「……、」
午後一時~一時三〇分
【えんびめも】
・玄関ホール近くで刑事さんを検分。
・傷が深い。矢を抜くなどの処置はかえって出血を増す。
・早急に医療機関に搬送する必要があるけど、屋敷の出入り口と私道のトンネルは明逢の手で封鎖済み。
・一刻も早く、クロスボウで武装した明逢の手から鍵束を奪う必要がある。
・私は初めて打算抜きの善性を知った。
・デレるがどうだというレベルではなく、菱神艶美は生まれて初めて恋に落ちた。
艶美
「正義の心に目覚めた艶美ちゃんは怖いぞ! ぶんぶん!!」
隼
「いかん、ぷんぷんじゃなくてなんか鈍器振り回してる!? 頭痛いのが、お前はどこまで行っても『菱神の女』ってとこなんだよな。舞のヤツとかと同じで」
午後一時三〇分
【えんびめも】
・明逢が妖怪・刑部姫を連れて地下通路から出てくる。
・艶美ちゃんは犯人が顔を出した瞬間を見計らい、固有振動数を利用して透輝館を破壊。玄関ホール一面にガラスの雨を降らせる。
・まともに浴びた明逢は半死半生。
・ちなみに妖怪の刑部姫は不死身なので怪我はない。
艶美
「とまあ、こんな具合で正義は勝つのだ!」
隼
「しれっと固有振動数とか言ってるけど具体的に何やらかしたんだ!? あと玄関ホールのすぐ近くに俺も倒れていたはずだけどかすり傷もないし!」
艶美
「やだなあナイショに決まってんでしょ。でも相手がガラスならバーナーと氷水でも何とかなったかもね」
午後一時四〇分
【隼の手帳】
・艶美、鍵束を入手。
・外は嵐だが、そもそも道を塞ぐほどの勢力はない。
・生存者は外へ。俺は執事の狩場に肩を借りる。
【えんびめも】
・地下のストレージからハードディスクを一つ拝借。マネキンの件は追跡調査可能に。
・ちなみに包帯執事の狩場さんは顔の傷が癒えていないと思い込んでいるだけで、フツーにイケメンだよ。
・艶美ちゃんは私道トンネルの『道祖神』を鍵束で開放したよ。後は救急車を待つだけ!
隼
「ハードディスクがどうしたって? 窃盗だから!」
艶美
「最後の最後に無粋なツッコミ入れるかね! ていうか? 館は倒壊寸前だし緊急避難だよ。私はむしろ失われる財産を保護してあげたんだけど」
隼
「……その館もそもそも誰の手で……。なんていうか、放火魔と火事場泥棒のハイブリッドに遭遇した気分だ」
艶美
「でも、あれ? 報告書まとめてる内になんか別のが出てない、刑事さん」
隼
「あん、何だって?」
艶美
「ほらここ。
八井敏、松島涼、初友鳴、豊川龍。
彼らが関わった山道の崩落とマネキンの謎は?
これってさ、報告書にあるこことここ、後ここを繋ぎ合わせるとだよ……」
隼
「……嘘だろおい。数年越しの事件が解けたぞ」
艶美
「ちゃんと答えはあったんだねえ」