内幕隼
うちまくはやぶさ。東京の刑事さん。妖怪嫌われ体質以外はいたって普通な公務員。あと感性が若いのか、年端もいかない少女達となんか仲良くなる。ちなみに実家はインテリビレッジと呼ばれる超高級ブランド田舎にある酒造所。
菱神艶美
ひしがみえんび。謎の女子中学生で、自称フリーランス。いわくありげな殺人事件の現場にふらりと現れる推理マニア。
過去に言動やファッションなどで黒歴史あり。また『菱神の女』の一員で、その才能が開花すると地球人類の四分の一が死滅するのだとか。
午後六時五〇分~七時一〇分
【隼の手帳】
・テレビの情報により、嵐は数日収まらない事が分かる。
・事態が収まるまで、全員館のお世話になる事に。食糧などの備蓄は当分困らないらしい。
・顔面包帯の執事、狩場咎だが、メイドの松島恋や長女の看過などは笑って世間話をしている。悪い人ではないのかも。
【えんびめも】
・収斂が余興と称して占いを始める。かなーりフィーリング重視 → つまり占星術やタロットのように法則性がある訳ではないみたい
・占いの内容は、刑事さんがどうしてこんな山奥に来たのか。(←じじい刑事さんに興味が?)
・刑事さんは土砂崩れで崩落した山道から若い女性の手足らしきものが出ている、という通報内容を調べるためにやってきた。
・結果は空振りで、壊れたマネキンだけ。ただし引っかかるものを感じて一人残っていた。
・刑事さんの顔をチラ見する限り、どうやらマジみたい
艶美
「この嵐は爆弾低気圧が居座ったものみたいだね。実感よりもテレビの方がおっかない事言ってた」
『臨時速報』
今夜は通常の番組内容を変更し、繰り返し気象情報をお伝えいたします。
現在、神奈川北部、東京西部、埼玉全域に大雨洪水警報が発令されています。レベルは『ただちに避難が必要な事態』で、問題の爆弾低気圧は今後数日間停滞するものと推測されています。
今は頑丈に見えても地盤が水を溜め込んでいる恐れもあります。地滑り、崩落、土砂崩れなどに警戒し、各自治体で定められた避難所へ移動してください。夜の避難は足元が見えにくく大変危険です。冠水した道路はマンホールの蓋などが外れている可能性もあります。常に明かりを持って、慎重に行動してください。また、様々な理由により避難が難しい場合は、できるだけ高い階の、山や崖の斜面から離れた部屋で待機してください。繰り返します。
隼
「でもって収斂の占いだが。ここで馬鹿正直にオカルトを信じるか、警察無線が傍受されていると見るかが分かれ道だな」
艶美
「あと、これが噛み付いてくる大企業組への牽制球としての効果もあるってのもご注目。
山道崩落の件? それとも遺体らしきものの目撃談? 注意深く観察してみよう」
隼
「……なんて、言っていられれば良かったんだけどな」
午後七時一〇分~七時四〇分
【隼の手帳】
・包帯執事の狩場が食事の準備を始める。
・和食派の八井敏と洋食派の松島涼が揉める。
・艶美に好き嫌いはない(自己申告)。
・八井敏と松島涼が沈黙。
【えんびめも】
・当主の収斂が館の戸締まりをしてるよ。
・透輝館では、内からも外からも鍵束がないと施錠、戸締まりはできないよ。
・長男の導入がそわそわと落ち着かない。
・メイドの松島恋がシャワーを浴びる(一回目)。
・刑事さんはガン見だよ(怒)。
艶美
「……、」
隼
「待て、これはノゾキじゃない!」
艶美
「とまあ、こんな感じで『家族に隠し事は不要』なんてイカれた家訓の紹介になるんだけど」
隼
「他に重要なのは、館の戸締まりを使用人じゃなくて収斂がしている点。外部からの守りは当主が責任を持つんだとか」
艶美
「それと例のクロスボウマニア、導入が落ち着かない点だね」
午後七時四〇分~八時
【隼の手帳】
・チェス派の松島涼と将棋派の八井敏が小競り合い。結局リバーシで対局を始める。
・食事の準備が整う。
・艶美が生ハムをつまみ食いしようとしているので、ひとまず叱っておく。いつの間にか艶美の引率に。
・初友鳴はほんとに生ハムをつまみ食いした。
【えんびめも】
・メイドの恋が皆を呼びに回るけど、収斂がやってこないよ。
・捜すと、玄関ホールで絶命した収斂を発見。クロスボウの矢で右肺を撃ち抜かれて死亡。
・即死じゃなかった? 胸を撃たれながら数メートル這った痕跡がある。かえって傷は開きそうだけど? ← すんごくイタそう……
艶美
「やってきました第一の事件」
隼
「何気に重要なのは、いなくなった収斂をみんなで『捜しに出かけた』点だ。普通なら何もおかしくないが、ここは透輝館。その特徴は何だった?」
艶美
「もちろん怪しいのは占いに振り回されてきた大企業組だけど、占い師一家だって完全に除外とは言い難い。まずは的を絞るとこから始めないとね」
隼
「……そう、ちょっと目を離した隙にろくでもない事をしたんだ、こいつは」
午後八時~八時二〇分
【隼の手帳】
・パニックになる人々をなだめ、自分が現場を保存。誰もが通る玄関ホールなのでいつまでも封鎖はできない。暫定的に現場検証を始める。
・収斂は真正面からクロスボウで撃たれている。矢の長さから考えて、小さなピストル式の弓と思われる。
・収斂の近くには血文字のダイイングメッセージがあった。
・収斂が持っていたはずの鍵束がない。よって館の中から誰も出られない。
【えんびめも】
・ダイイングメッセージにはこうあったよ。血文字で『ユミ』。
・さて、『日日』にしたらどうなるの、と。
艶美
「ちょちょいのちょいと」
隼
「やりやがった! せっかくのダイイングメッセージを勝手に書き換えやがったー!!」
艶美
「いやだって、死の間際で意識朦朧な被害者が暗号じみたメッセージを残せると思う? よしんばできたとして、真正面から胸板ぶち抜いた犯人が気づかないとでも?」
隼
「……となると、犯人が書いたダイイングメッセージをさらにお前が書き換えた訳で」
艶美
「さ、スマホで撮って自信満々に見せびらかそう! 安全圏に逃げたと一息ついてる犯人なら絶対驚くぞう」
午後八時二〇分~八時三〇分
【隼の手帳】
・リビングに集合。クロスボウマニアの導入が吊るし上げにされている。
・導入の話では、夕飯前にピストル式のクロスボウが一丁なくなっていたらしい。
・豊川龍はズボンのポケットに片手を入れたまま。どうやら携帯電話かICレコーダーを操作している様子。
【えんびめも】
・改ざんしたダイイングメッセージの写真を見せてみよう!
・フシゼンな反応したのは、吊るし上げにしていた看破、仲裁に入った夫人の明逢、吊るし上げにされていた導入。
隼
「看破さん。お淑やかな車椅子のご令嬢、ってイメージだったけど、意外や意外、メチャクチャアクティブな人だったな」
艶美
「ま、あの人怒るとモップの柄とかホウキとか長物掴んでとにかく殴りかかるからね」
隼
「彼らも彼らでアリバイがああだ動機がこうだ、一応本気で考えていたみたいだけど……無駄なんだよなあ、大抵」
艶美
「現実にああいう話すると水掛け論になっちゃうんだよね。あの時私はここにいました、あの人も見ています。論理的に説明したって、ええーそうでしたっけー? の無責任な一言でひっくり返されちゃう。人の脳はハードディスクじゃないから印象に記憶が引きずられる事もあるし、目撃者は別にそいつ庇う義務はないからのらりくらりで信用ならない。意見潰すのに、多数決で押し切る必要さえないんだ」
隼
「せめて『不利な条件でも真実なら絶対呑み込む』ってルールがあればな」
艶美
「あとはクロスボウの話かな」
隼
「導入の話はあくまでも自己申告で、嘘をついている可能性もあるぞ」
艶美
「ちなみに問題のクロスボウのスペックはこんな感じ。導入の部屋にカタログ雑誌があったよ」
『サイナカ狩猟工業、秋の新作』
イーグル2
サイナカ狩猟工業製
全長25センチ(折り畳みストック、スタビライザー等最大展開時55センチ)
重量700グラム(弊社別売スコープ装着時850グラム)
最大飛距離150メートル、有効射程20メートル(弊社標準ボルト25使用時)
販売価格、オープン価格。
備考。本製品はABS樹脂製ボディにより優れた強度を保ったまま軽量小型化に成功したピストル式クロスボウの新作です。スタンダードモデルでも十分な的撃ちに活用できる他、別売オプションとして合成繊維製の弓を重ね貼りする事で、最大三倍まで運動エネルギーを増す事も可能な意欲作となっております。
隼
「ああもう、カバンに隠せる無音のクロスボウなんて明らかに悪意のあるものをポンポンと……! どこのどの辺が狩猟用なんだっ!?」
艶美
「十中八九凶器の出所はこいつだけど、念のために他の可能性も考慮しておこう。
足の悪いお嬢さん、看破は車椅子の中に分解した弓矢の材料を隠していないかなとか」
隼
「どっちみち、導入のクロスボウを『消す』必要があるから無駄骨ではあるんだが」
艶美
「心理学的に言えば、クロスボウ、というより飛び道具を好むのは『劣勢を覆す』心性の表れだね。罠や毒殺ほど陰に隠れるつもりはなく、直接対決を望むけど、でも取っ組み合いを嫌っている矛盾を孕んだ状態。だから安全な距離を稼いで緊張から解放されたがってるって感じかな」
隼
「あくまで一例だ。プロファイリングは統計上の指針であって魔法じゃない」
艶美
「あと、ダイイングメッセージの件は分かりやすいと思う。この状況で、血文字がユミの持ち主、つまり導入じゃないと面喰らうのは誰? そして、面喰らわなくても良いのにリアクションしているのは誰?」
午後八時三〇分~九時
【隼の手帳】
・鍵束がなく、全員が館に閉じ込められた旨を報告する。
・外は嵐で途中のトンネルも崩落しているが、一応館から出られないかを確かめてみる事に。
・窓や扉は開かない。防犯用の強化ガラスなので、工具を使っても割れない。
・念のため全室を調べタンスや机の引き出しもみんな調べた。許諾を得て身体検査もしたが、クロスボウや鍵束は見つからない。
【えんびめも】
・豊川龍のポケットからICレコーダーが見つかったよ。
・メイドの恋はびっくり。
・夫人の明逢はヤな顔。
隼
「鍵束はともかく、クロスボウの隠し場所は明確。犯人だけは自由に内外を出入りできるんだから、館の外にクロスボウを放り出して鍵を掛ければ見つからない。あくまでも外壁は透明じゃないからな」
艶美
「にしても、玄関のドアもそうだけど、この強化ガラスの窓ってのが固いのなんのって……」
隼
「何しろ警視庁どころか防衛省でもお世話になってる例のアレだ。それを全面なんて、一体いくらつぎ込んだんだ、この屋敷」
『警視庁の備品調達委員会に寄せられた、一般非公開広告資料』
弊社開発のクリスタシールドver.12は大統領専用車を想定した防弾耐爆ガラスの最新グレードとなります。
ケイ素ベースに様々な不純物を混ぜた極小のトラス構造を基軸にしており、ガラスらしからぬ剛性と弾性を備えた最高傑作。ワイヤーやフィルムのような無粋な汚れも混ざりません。もちろんベースがガラスですので、ほとんど全ての薬品も弾きます。
なお、当商品は重要商品対外輸出制限を受けておりますので、同盟国以外への持ち出し、転売等は堅く禁止されております。ご注意ください。
隼
「他にはICレコーダーの件も一応な」
艶美
「ここは透輝館、でも壁や床が透明なのは何でだっけ?」
隼
「もちろん決定打にはならないが、往々にして緊張状態にある人間は必要のないところまで気を配るもんだ」
艶美
「後は鍵束になるけど、家具の引き出しにはない。でもそれ以外って? 全部ガラスの館の中に隠し場所なんてあるのかな」
隼
「答えは簡単なんだが、これはのちのち響いてくる」
午後九時~九時一〇分
【隼の手帳】
・衆人環視の透輝館内で誰にも知られず自由に人を殺せる犯人から身を守る、自衛手段が必要になる。
・大企業組と星見家組とに分かれていがみ合いが始まる。
・包丁や金槌などで武装しようとする八井敏や豊川龍らをなだめる。クロスボウ相手の場合接近戦は意味がない。ガラスの壁では身を潜めて奇襲もできない。それよりベッドを分解して布団や合板などで矢を受け止める盾を作った方が効果的だと説明する。
艶美
「刑事さんも意外と口が回るよね。てっきりみんなで武器持って一触即発コースかなって睨んでいたのに」
隼
「お前はむしろそうなるように煽りまくってただろ! のんびりムードのメイドまで果物ナイフに手を伸ばすし、周りを落ち着かせるのにどれだけ神経をすり減らしたか……!」
艶美
「だって周りがギスギスすれば身を守るために犯人が証拠のクロスボウを持ち出すかもしれないじゃん。……それに、容疑者が全員倒れれば一応はその中に犯人もいる訳だしね」
隼
「少々お灸が必要だな。昔のお前の発言を再生してみようか?」
艶美
「ちょっ、待、何もそれ本人の前でやるような事じゃ---」
過去艶美(の声真似をする隼)
「ねえ、死神って信じる? そう、なら人生は勉強の連続だ。星と月なき漆黒の嵐の夜は長い、存分に世界の理を学ぶと良いよ」
艶美
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
隼
「ええと、手はどう置くんだっけ? なあ、なんか腕をクロスしてデコに指当てるんだったよな。あれおかしい、なんか絡まる……」
艶美
「あばば! あばばば! びゃびゃびゃびゃあああああああああああああああああああああ!!(がくがくがくびくんびくんばたん!!)」