3(3rd person)


 そして市ヶ谷の防衛省施設のすぐ近くにあるビルの屋上で分厚い軍用コートをレジャーシートのように敷いてうつ伏せに寝転がる、ビキニのトップスに細いズボンの組み合わせの女が呆れたように携帯電話へ口を開いた。

 菱神由。

「あーらら。ちょっとまずそうかも。標的はアクティブ、繰り返す、標的はアクティブ」

 彼女は季節外れの日光浴を楽しんでいるのではない。

 一九四一。

 二メートル近いあまりにも長大な対戦車ライフルを静かに構えているのだ。

 電話の向こうからは一〇歳くらいの、あどけない少女の声が返ってくる。

『本気で当てる気あった?』

「ふざけんな、手加減する理由がないっしょ。相手はあの天だよ? あっちこっちふらふら動いて狙いにくいったら!」

『狙撃ユニットに組み込んだのっぺらぼうはどうしたの。相手を化かす力を利用すれば、どんな相手でも二秒間確実に棒立ちにできるんじゃなかったっけ?』

「ダメダメ、あの天だって言ってんでしょ。逆手に取られるよ」

『うーん、じゃあ刑事さんの足を撃ってお荷物にしたら良かったのに』

「一九四一でやったら真っ赤な水風船だ。それに」

『それに?』

「……なんかやだ。ああいう熱血漢撃つの」

 電話からくすくすという笑みがあった。

 慌てたようにビキニトップスの美女は起き上がる。

「お、おい! 『優しいノイズ』の話だぞ!」

『そういう事で良いよ。でも天ちゃんは放っておけない。由ちゃんも引き続き追い駆けて』

「良いけど、流石に車が相手じゃ追跡しきれないよ? ビルからビルにショートカットの大ジャンプってのも限界はあるし」

『そっちは大丈夫。足止め役に何人か動いてもらうから。浪(ろう)ちゃんとか、顕(あらわ)ちゃんとか、後は落(らく)ちゃんとかも……』

「えげつねえ」

『あと口先ばっかりだと気が引けるから、私も動くね』

「ゔぇっ!?」

『なに?』

「い、いやあ、あはは。な、何もアンタが現場に出る事はないんじゃないかなーなんて。お姉さん頑張っちゃうし!」

『そのおねえちゃん達だけじゃ不安になってきたから動くの。それじゃ、現場で会いましょう。ぶいっ』

「あっ、ちょ!? ……切れやがった」

 呆然と呟き、そして美女は頭を掻いた。

 レジャーシート代わりに引いていた軍用コートを掴んで肩に引っ掛けながら、

「……『倫理を破壊する夢(ゆめ)』が現場入りとかマジかよ。もしかして今日で東京オワッタ! ってヤツか……?」