リザは弾丸の速度で敵へと疾走。ナイフによる刺突は正確に心臓へ向かう。並の相手ならまず殺せる先手必勝の一撃を、侵入者は身を翻すだけで躱した。
返す刀で大鎌が振り上げられる。リザが猫のように後ろへ跳んで回避するも、死神の凶刃は凄まじい速度で回転しながら追い縋ってくる。壁際まで追い詰められたリザの喉元に、大鎌の切先が容赦なく迫る。そこでリザが見出した活路は上方だった。その場で飛び上がり、壁を蹴って前方に回転する。
「はっ、なかなかやるじゃん?」
「黙れ。死んでろ」
化け物どもの攻防は速すぎて、援護をする隙がない。それにこの狭い室内で動き回られては、シエナを巻き込まずに短機関銃をブッ放すのは無理だ。大人しくクリッガンを消し、ホルスターのバラックM三一に持ち替える。
目線の合図に呼応してリザが動く。相棒は正面から男に斬りかかろう、として真横に飛び跳ねた。鉛の矢が、リザに気を取られて無防備になった男の左脇腹、右腕にそれぞれ命中。激痛に膝を落とした襲撃者の側頭部を、距離を詰めていたリザの水平蹴りが襲う。
勝機。俺は一気に間合いを詰めながら追撃。数発が脚や腕に命中し、転がって逃げる男の機動力を確実に殺していく。
「畳み掛けろ!」
俺が怒鳴るよりも速く、音速の斬撃が襲撃者の首筋に迫っていた。襲撃者は辛うじて躱すことに成功するも、趣味の悪い髑髏の仮面が砕け散っていく。
「あー…………」
襲撃者はがくりと肩を落とし、仮面の外れた顔を左手で抑えて俯いている。黒いコートは無数の穴と切り傷で無残な姿になっており、所々から大量に出血しているのが窺える。不愉快なくたばり損ないに銃口を向けた俺の背筋を、極大の悪寒が走り抜けていった。
「てめえ、何笑ってやがる」
仮面を剥がされた男の唇には歪んだ笑み。ウェーブが掛かった薄緑色の髪の隙間から覗く瞳孔は完全に開いており、喉の奥からは唸り声が漏れていた。危険を感じた俺は男の息の根を止めるべく、バラックで続けざまに胴体に風穴を開けていく。それでも異常者の薄ら笑いは消えない。被弾の衝撃で奇妙なダンスを踊りながら、出入り扉近くの壁に叩き付けられる。常人なら即死、銀使いであってもまず助からないほどの大量出血だ。あれだけ大口を叩いていた割に、呆気ない幕切れだった。
追い討ちを掛けるように、リザが全体重を掛けた蹴りを肩口に浴びせる。既に銃弾で抉られている左肩を、リザは満面の笑みを浮かべながら踏み付けいてた。爪先に隠された刃に切り刻まれ、もはや左肩は原型を留めていない。味方の俺ですらドン引きするサドっぷりだが、襲撃者は苦痛に叫びながらも口許の笑みを消してはいなかった。気味が悪すぎる。
「何か遺言は?」
リザが異端諮問官のように冷酷な言葉を投げると、血塗れの襲撃者は喉を仰け反らせて笑う。
「はっ。ケツの穴に気を付けてな、マヌケども」
背後で物音。慌てて振り向いた時には既に、俺の視界は赤く染まっていた。
状況をようやく脳が処理する。どうやら俺は攻撃されていて、右肩から胸にかけて深く斬られているようだ。激痛に膝が落ちる。突然の奇襲者はリザに飛び蹴りを放つ。細腕で受け止めるしかなかった相棒は体勢を崩し、反撃に転じることができなかった。
「なる……ほど、リザが気付かない……わけ、だ」
リザも瞳に理解の色を浮かべていた。俺に背後から重傷を負わせ、リザが攻撃を受けるまで感知できなかったもう一人の襲撃者は、さっき殺されたはずのダニエルだったのだ。
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