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 オリジナルの『オズの魔法使い』でも、カカシは脳みそを、ブリキ人形は心臓を、そしてライオンは勇気を求めているのだ──と、復路を飛んでいる間にアスナは教えてくれた。
 しかし、彼らは結局、それらを手に入れることはないのだという。物語の最後で、大魔法使いオズは言うのだそうだ。魔女に捕らえられたドロシーを助け出す過程で、カカシは知恵を絞り、ブリキは感情を表わし、ライオンは勇気を発揮した。だからお前たちは、もう求めるものを手にしている──。
「…………なるほど、な。だからアスナもアルゴも、サブクエをクリアしなくてもライオンたちが立ち上がることが解ってたのか」
 俺が苦笑混じりにそう言い、女性陣が揃って自慢げに頷いたところで、家がずずーんと着地した。
 外に出ると、そこは確かに、俺がかつてこのログハウスを発見した森の空き地に間違いなかった。立ち尽くす俺とアスナを置いて、すたすたと芝生を横切ったアルゴは、振り向くとにんまり笑いながら言った。
「今日は助かったヨ、お二人サン。お礼に、このネタは売らずに秘密にしておいてやるヨ」
「は? このネタって……どのネタだ?」
「決まってるダロ!」
 ぱちーんと一発ウインクを寄越して──。
「お幸せにナ、キー坊、アーちゃん!」
 唖然と立ち尽くす俺たちを残して、アルゴは忍者のごとき鮮やかさで視界から消えた。
 数秒後、くすくすとアスナが笑い出したので、俺もつられて顔を緩めた。ははは、と声を合わせて笑ううちに、胸の奥に刺さっていた最後のトゲも跡形もなく消えていくのを感じた。
 ──求めるものは、それを求めて一歩踏み出した時、もう手の中にある。
 俺はアスナといつまでも一緒にいることを願い、プロポーズした。だからその時、俺はもうなくした物を見つけていたのだ。人を愛する気持ちを。
「…………アスナ」
 名前を呼ぶと、アスナは微笑みを残したまま、じっと俺を見た。
 ログハウスの屋根越しに届く残照を受けて、きらきらと美しく輝くはしばみ色の瞳をまっすぐ覗き込んだまま、俺はメインメニューを開いた。タブを二回移動し、目指すボタンにそっと指を添える。
 《Marriage》の文字列を押し、次いで《Asuna》の名前に触れる。
 アスナの瞳が動き、彼女の前に出現した小さなウインドウを見た。右手が持ち上がり、細い指が撫でるようにウインドウに添えられ──。
「…………キリトくん」
 俺の視線をしっかりと受け止めながら、アスナはひと言囁いて、《YES》のボタンを押した。

 この世界を支配する自律制御システム《カーディナル》の名前を俺たちが知るのは、ほんの数日後。
 カーディナルが備える、驚異の《クエスト自動生成機能》について教えられるのは、ずっとずっと後のこととなる。

(終わり)

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