オリンポスの郵便ポスト


 お父さん、お母さん。夢を見ました。古い古い、ずっと昔から見ている夢です。

それは星が空からいっぱい落ちてきたあの日――。古びてセピア色に変わり果てた記憶の中で、唯一、あの日の見たものだけが未だに深く胸に傷痕のように刻み込まれています。

 七歳のころでした。私は星が見るのが好きでした。火星の空からはたくさんの星たちが見えました。特に、砂塵嵐(ダストストーム)が通り過ぎたばかりの夜には、空気が澄んで、空一面に宝石箱のような煌めきを映し出します。満天の空に、一際、明るく瞬く星がありました。

 地球です。お父さんとお母さんが生まれた星。地球には火星にはない、水でいっぱいの海や木々で埋め尽くされた森もあると聞きました。でも、この星だって、惑星改造(テラフォーミング)を頑張れば、私が大人になるころには火星も地球に負けない緑と水の豊かな星になるだろうと。お父さんはいつも言っていましたね。

 だから、あの空の向こうに見える地球が、この星の未来の姿。そんなことを考えると、私の胸は弾みました。その時です。綺麗に瞬く流れ星が横切るのが見えました。

 それも一つだけではありませんでした。空を覆い尽くしたのは無数のほうき星の群れでした。まるで、空から全ての星が零れ落ちるかのよう。何もない火星の大地に光の雨のように降りしきりました。前にお父さんに教えてもらった流星群――それは宇宙を旅する彗星の置き土産なんだと。神秘的な光景を前に、私の胸はますます高まりました。

 でも、それは間違いでした。あの日、空から落ちてきたのは星そのものでした。

 遥か北東の遠く、山の向こうに流星が連なるようにして落ちてきました。その一瞬。東の空が血のような真紅に染まり、燃え上がりました。そして、わずかに遅れて鼓膜を貫くような轟音が風を震わせました。それでも、星はさらに落ち続けました。東から、西から、襲い掛かる爆音に私は耳を塞ぐしかありませんでした。怖くなって、お父さんとお母さんを呼びましたが、その声も爆撃の中に押し潰されてしまいました。それから数分もしないうちに、大地を薙ぎ払うように巨大な衝撃波が押し寄せてきました。

 人も、街も。すべてが暴風に飲み込まれ、炎に焼き尽くされました。それは一瞬の出来事でした。そして、それがこの星の受難の歴史の始まりでした。