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この島に置かれた監獄の正式名称は『巳焼島軍事刑務所』という。捕虜収容所でないのは日本人の犯罪魔法師も収容されるからだ。本来であれば刑事施設である刑務所で刑に服するべき犯罪者も、強力な魔法師である場合は十分な管理ができないという理由でここに送り込まれている。また、正式な捕虜は魔法師であってもここには収容しないという理由もある。
深雪は刑務所の最高責任者である所長に挨拶をして─この者は四葉家の人間ではないが、その息が掛かった軍人である──、彼の秘書役を務める女性下士官により宿舎へ案内された。
宿舎は、刑務所とは別棟になっていた。部屋は明らかに重要人物用と思われる、華美ではないが広く立派なものだった
「あの……同じ部屋なんですか……?」
寝室とは別になっているリビングで呆然として訊き返す深雪の顔を、曹長の階級章をつけた秘書役の女性は不思議そうな表情で見返している。
「そのように指示されておりますが」
真っ先に「誰から?」という疑問が深雪の脳裏を過る。
答えはすぐに出た。
ここは四葉家の影響下にある施設で、自分は本家の次期当主候補だ。そんな指図ができる者は二人しかいない。
母親ではありえない。ならば、この手配は……。
(……叔母様、何ということを)
「小官はこれで失礼します。何かご用の際はそちらの内線電話でお呼びください」
深雪が無言で立ち尽くしているのを、納得したと判断したのだろう。案内の曹長は二人を部屋に残して刑務所へ戻っていく。
深雪と達也の二人を残して。
閉ざされたドアを見詰めていた深雪が、ぎこちない仕種で振り向いた。
「あの……」
無表情に自分を見ている達也に声を掛けてはみたものの、それに続く言葉が出てこない。当惑を超えて混乱状態に陥っている妹に、達也は乏しいながらも何処か諦めを滲ませる表情で答えを返す。
「仕方が無い。俺はお前の側にいなければならない立場だ」
守護者は守護対象を、身体を張って守らなければならない。それが達也の言う「立場」だと、深雪はすぐに理解した。
「お前は嫌かもしれないが、ベッドルームには立ち入らないようにするから少しの間、我慢してくれ」
「その……決して、嫌ではありません」
このセリフは、深雪の本心だった。それでも言い淀んでしまったのは、恥じらいがあったからだ。
中学生にもなれば、たとえ生まれた時から一緒に暮らしている、仲の良い兄妹であっても、同じ部屋で寝起きするのは恥ずかしくなるものだ。深雪の場合は今年になってようやく達也と共に過ごす時間を持ち始めたばかり。家族としての交流は、八月から始まったばかりだ。「同じ部屋でも嫌ではない」と口にするだけで、自分が淫らなことを言っているような気になってしまったのである。
「荷物を置いて参ります」
達也の顔を見ているのが恥ずかしくなった深雪は、着替えが入ったトランクを引っ張ってベッドルームに逃げ込んだ。余計なことを考えて頭がいっぱいになっている所為で、達也が何処で寝るのかという重要な問題に、深雪はこのとき気づいていなかった。