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避難命令は一日で解除された。達也と深雪は海上空港のラウンジで一夜を明かすことになったが、他の軍人や囚人に比べれば待遇は格段に良かった。
達也はその間、ラップトップ端末でニブルヘイムの起動式を書き換え、深雪はお茶の給仕をしながらそれを見ていた。ほとんどの時間、横で見ていただけだが、深雪はまるで退屈することなく、ずっと楽しそうだった。
噴火の翌々日の練習再開後、深雪は一度もニブルヘイムを失敗しなかった。達也が書き換えた起動式の御蔭だと彼女は思っている。達也は少し違う見解を持っていたが、せっかく自信が持てるようになったのに、それに水を注すのは悪手だと考え口を噤んだ。
達也はニブルヘイムの終了段階に気体分子の運動速度のみを元に戻すプロセスの記述を追加することで、エネルギー収支の不均衡を緩和する仕組みを作り出した。それによって深雪のニブルヘイムが上手くいくようになったのは確かな事実だ。
この起動式と、敢えてエネルギー収支の不均衡を残すことで激しい気流を引き起こすもう一つの起動式は共に、その後もずっと深雪の愛用するものとなる。
また深雪の練習によって、新たに形成された東側の溶岩原はすぐに使用可能な温度になった。この時の溶岩噴出で巳焼島の面積は八平方キロへ、一平方キロメートル増加した。
こうして深雪は無事、中学一年生の三学期が始まる前に、広域冷却魔法・ニブルヘイムを修得した。
(『続・追憶編─凍てつく島─』完)