続・追憶編 ─ 凍てつく島 ─

12

◇ ◇ ◇

  避難命令は一日で解除された。たつゆきは海上空港のラウンジで一夜を明かすことになったが、他の軍人や囚人に比べれば待遇は格段に良かった。
たつはその間、ラップトップ端末でニブルヘイムの起動式を書き換え、ゆきはお茶の給仕をしながらそれを見ていた。ほとんどの時間、横で見ていただけだが、ゆきはまるで退屈することなく、ずっと楽しそうだった。
  噴火の翌々日の練習再開後、ゆきは一度もニブルヘイムを失敗しなかった。たつが書き換えた起動式のかげだと彼女は思っている。たつは少し違う見解を持っていたが、せっかく自信が持てるようになったのに、それに水をのは悪手だと考え口をつぐんだ
たつはニブルヘイムの終了段階に気体分子の運動速度のみを元に戻すプロセスの記述を追加することで、エネルギー収支の不均衡を緩和する仕組みを作り出した。それによってゆきのニブルヘイムがいくようになったのは確かな事実だ。
  この起動式と、えてエネルギー収支の不均衡を残すことで激しい気流を引き起こすもう一つの起動式は共に、その後もずっとゆきの愛用するものとなる。
  またゆきの練習によって、新たに形成された東側のようがんげんはすぐに使用可能な温度になった。この時の溶岩噴出でやきしまの面積は八平方キロへ、一平方キロメートル増加した。
  こうしてゆきは無事、中学一年生の三学期が始まる前に、広域冷却魔法・ニブルヘイムを修得した。

  (『続・追憶編─てつく島─』完)

「NOVELS」TOPに戻る