「#あなたの電撃文庫」フェア!
電撃文庫で活躍する作家が、「本当にお薦めしたい!」珠玉の作品をご紹介する『#あなたの電撃文庫フェア』が開催!
2025年12月25日(木)まで対象の126冊が1巻220円(税込)、2巻以降は全て50%OFF!!
第一線で活躍する作家陣が選ぶ、バラエティ豊かな「電撃文庫」たちにまとめて触れ合うチャンス!
ノベコミ+では、対象タイトル1巻の試し読みを一挙公開。ぜひご試読のほど、よろしくお願いします!
『赤村崎葵子の分析はデタラメ』
著者:十階堂一系 イラスト:霜月えいと
おそらくこの世で唯一の『分析小説』です(推理小説ではありません)。
超個性的ヒロイン・テルが紡いでいく、ときに軽快、ときにまどろっこしい分析の数々が、事件の真相を解明していく……いや、どうだろう? 解明したのかな? してるといいな?
たとえデタラメでも、いいんです。分析そのものが面白いから。
十階堂一系先生ならではの切り口で描かれた新感覚小説を、ぜひ皆様も五行ごとに腹筋崩壊させながら読んでみてください!
『あのとき育てていただいた黒猫です。』
著者:蒼井祐人 イラスト:きみしま青
「優しいお姉さん!」「おっぱい!!」「そして可愛いショタ!!!」
ライトノベルに必要なものは何か?
そう聞いて、皆様方の脳裏を過るものは何か。
いや、それほど多くはないだろう。
電撃文庫は30年以上もの歳月をかけ、読者諸君の青春を彩り人生を深めてきた。
幾百もの物語によって構築された私たちラノベ読者の深層心理に潜むもの。
それは――。
「優しいお姉さん!」「おっぱい!!」「そして可愛いショタ!!!」(復唱)
飼い主に愛されて天寿を全うした黒猫が転生したのは可愛い男の子!?
ちょっぴり闇が深くて感情が重そうなお姉さんから愛されまくる転生ショタっ子の摩訶不思議な家族愛の物語。
『あのとき育てていただいた黒猫です。』
さあ最後は皆様ご一緒に!
でかいおっぱいしか勝たん!!!
『イリヤの空、UFOの夏 その1』
著者:秋山瑞人 イラスト:駒都えーじ
気がつけば刊行から四半世紀近くも経つが、色褪せないたったひと夏のおはなし。
セカイ、青春、ボーイミーツガール、何でも揃っている。
できれば十代のうちに、この作品に触れて欲しい。
幸せな呪いのようにずっとずっと、6月24日が来る度に、心の中であいつの叫び声が聞こえる。
この物語を読んだらあなたはこう言う。絶対言う。私も言った。
「おっくれてるぅーーーーーーーーーっ!!」
『エスケヱプ・スピヰド』
著者:九岡 望 イラスト:吟
当時の私は特に小説を書いたこともなく、アニメ化した有名ラノベを、レーベル関係なく散発的に読む程度でした。
レーベルに対する知識も皆無で、「なんか背表紙の色が緑統一のやつと、青統一のやつと、不定なのがある」くらいのイメージです。
とはいえ玉石混交なのはどこの業界でも常であり、正直「お金返してね♡」と思わざるを得ない作品が、当時は各レーベルに結構あったのが正直なところですね。
そんな中で私はラノベに詳しい後輩、後の電磁幽体くんにふと訊ねました。
「なんかおもろいラノベないん?」と。彼は粘着性に富んだ笑みを浮かべ、「ありますよ」と即答しました。
『エスケヱプ・スピヰド』、以下畏敬と尊意と敬愛を込めて『エスケ』と称しますが、本作との出会いはそこからでした。
ジャンルも何も指定しない、アバウトな「おもろい」に対して、そんな即答出来る作品がラノベなんぞにあるんでっか、と。
無礼にも当時の私はそんな舐め腐った考えでしたね。
言うてラノベ程度を読んでも、初めてジョジョやハンターハンターを読んだ衝撃に勝ることはあるまい……。
うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!
(椅子から転げ落ちて小便を撒き散らし実家の犬が吠える)
早速買ってみた『エスケ一巻』の、読了後の衝撃は己の人生に影響を大きく与えました。もう断言します。影響を与えています。
「やばい。こんなに面白いラノベがあるのか」と、基本は斜に構え冷笑と皮肉でちっぽけな己のプライドを守ってばかりの私が、電磁くんに本気でそんな感想を語りました。
彼も『エスケ』を読んだ衝撃は相当なものだったようで、全く同じ感想だったことを覚えています。
語彙力がない私では本作の『凄み』を上手く表現することが出来ません。
とにかく"全部いい"んですね。欠点がなく、長所しかない。悪い部分が見えない。良いところしかない。もうあり得ないんですよね。
とはいえ、あくまで大きなネタバレはNGな企画だと思っているので、一巻のごく基本的な範囲に留めて軽く語ります。
まず主人公の九曜くんがめちゃくちゃいいキャラをしている。たった一巻の中でも大きな成長をはっきりと感じられる。
その上で愛嬌もある。もちろんカッコいい。ヒロインの叶葉ちゃんとの掛け合いが全部ユニークで面白い。
私はスカしてるヤツが嫌いな純血種の陰キャなので、愚直で不器用でも芯が通って優しい九曜くんみたいな主人公は理想像でした。
抱いてください(直球)
設定に外連味がある。SF異能メカアクション……と本作を呼称していいかどうかは分かりませんが、"鬼虫"と呼ばれる異能力者が、巨大虫さんロボで戦うのが面白い。(クソ雑な説明ですみません)
それにメカって頭の中でかなり想像し辛いので、小説で書くにはマジで難しいジャンルだと個人的には思いますが、ベースが『虫』なので頭の中で読み手がイメージしやすい、というのも創作者目線で膝を打ちました。
読者目線だと「やっぱトンボって強ぇよな!! こんなん勝てねーわ!!」としか思ってませんでした。
構成がすごい。たった一冊でここまでの満足感を生み出せるものなのかと、一周回って恐怖が勝りました。
当時のラノベは続刊しやすく、そのせいか割と一冊の"濃度"というのは控えめなのが当たり前の中で、この"濃度"はもう固体に近い。
面白さという液体を飲むのではなく、固体化したそれに小せえ己の脳みそが直接ぶん殴られている感覚。
伏線回収やキャラの掘り下げなどが完璧な塩梅でした。当然続刊するので未回収のものはありつつも、現実的な範囲で。
小説を読み終わって、一人薄暗い部屋の中で虚空に拍手した経験は、未だに『エスケ』を初めて読んだ時ぐらいです。
一巻のラスト付近の九曜くんのセリフがねえ、人間味と成長と可愛さがあって最高なんすワァ!!!!!
(※「……君が、小生で良ければ」のくだり)
描写がすごい。私では逆立ちしても真似できない。
恐らくほとんどの方はスピード感と迫力ある戦闘シーンに目が向くと思いますし、実際そこもとても優れています。
ですがそれ以外の、ほんの日常的な描写や合間のキャラクターのセリフなど、端々に"血"が通っているのですね。
どこかで借りたようなものではない、その作中世界――即ち舞台の『尽天』で必死に生きている登場人物達の息遣いがある。
細部に神は宿る。その結果、一冊の本として顕現しているのだと私は考えています。
無限に語ってしまうので一旦切り上げます。
まあそういうわけで、『エスケ』を読んだ結果、私は「電撃文庫と電撃大賞ってすごい。ラノベ書いて送るならここしかない」と思うに至りました。
程なくして私は電磁幽体くんを含む数名で創作グループみたいなのを作るのですが、そこでの信条は非常にシンプルです。
"教科書"は『エスケ』!
"聖書"も『エスケ』!!
"答え"が『エスケ』!!!
要は『エスケ』レベルのものを書けりゃ当然プロになれんだよ!! というわけですね。
個々人の好みによって本の好き嫌いは変わりますが、少なくともワナビ(小説家を目指す者のこと)に関して言えば、『エスケ』とは一つの答えでありお手本だと断言します。
このクオリティが評価されない世界なんてない。だから"電"は(ある程度)今も信じられるレーベルなのですよ。
オイ分かるか電? 今なんか世間ではとみに"リバイバルブーム"だよな?
これ以上は言わんからな???
さて、そんなすげーラノベがなんと全八巻(本編七巻+短編集一巻)も読めちまうんだ!!!!
これはもう買うしかない!! まずは一巻だけでもいいから!!! 読んでください!!!!
よろしくお願いします!!!!!
ほんと後悔はしないので!!!!!!
マジよろしくお願いします!!!!!!!
『オーバーライト ――ブリストルのゴースト』
著者:池田明季哉 イラスト:みれあ
この作品は、きっとあなたに新しい扉を開かせてくれる。
作品の価値とは何で決まるだろうか?
もし、小説の価値が読者が開く新しい世界への扉の数で決まるなら、この作品は間違いなく価値のある作品だ。
グラフィティ。
スプレーなどを用いて公共の壁に描かれる絵だ。
それは上書き(オーバーライト)すらされるただの落書きかもしれない。だが、それらもまた『作品』なのだ。
そこにどんな価値が、文化が、情熱があるのか。それをこの作品は、英国の風とともに教えてくれる。
この作品で、あなたの『落書き』を見る目は変わる。
『学校を出よう! Escape from The School』
著者:谷川 流 イラスト:蒼魚真青
『涼宮ハルヒ』シリーズと時同じくして発表された、巨匠・谷川流のもう一つの傑作。
〈EMP能力〉と呼ばれる超能力が存在する世界で繰り広げられる、壮大な物語が非常に魅力的なシリーズになります。
とりわけお勧めが『学校を出よう!② I-My-Me』。
『三日前の自分』と『三日後の自分』が『現在』で邂逅し、さらに『三日後の自分』は何故か血塗れのナイフを手にして、ここ六日間の記憶を失っていた――。
この極上の設定を見事にライトノベルの文脈に落とし込んだ手腕は、まさに天才の一言。
SFでありミステリであり、そして何よりこの上ないエンタテインメントでもあります。
空前絶後のセンス・オブ・ワンダーが味わえる至高の一冊ですので、この機会に是非!
『神様のメモ帳』
著者:杉井 光 イラスト:岸田メル
学校の外にある不思議な居場所。それぞれの業を背負った愉快な仲間たち。いつだって隣にある現実と悲劇。
テーマは限りなく重く、なのに読み味は驚く程に軽い。腕利きのバーテンダーが作る度数強めのカクテルのよう。
ゼロ年代は今や遠くなった。が、人間はさして変わらず、よってこの作品も色褪せない。名作をご堪能あれ。
『ガンズ・ハート 硝煙の誇り』
著者:鷹見一幸 イラスト:青色古都
最強もチートも無双もない、だけど生きる人々の活力がそこには溢れていた。
自然の脅威に対して、様々な立場の人々が自分のやるべきことを、やれる限りで真摯に果たす。
最近の流行りではないけれど、だからこそ今読んで欲しいと思う物語。 苦しい状況だからこそ、腐らずに正しいことをしようと思う人々に私は胸打たれたのです。
私が読んだ最初の電撃文庫作品で、幸運にも電子化されていたのでおすすめさせて頂きました。
『給食争奪戦』
著者:アズミ イラスト:すきま
これまで作品推薦の機会をもらう度に推薦し続けてきたし、これからも推薦し続ける。
自分が小学生の親となった今改めて読み直し、全小学生経験者必読の書であると改めて思う。
かつて給食で余ったデザート争奪じゃんけんに命を懸けたことのある者、クラスメイトに淡い思いを抱いた者、学校なんか行きたくないと思った者は、この本を読めばきっと自分の中に眠っていた『一日を生きるための熱』が呼び覚まされると約束します。
『グリモアレファレンス 図書委員は書庫迷宮に挑む』
著者:佐伯庸介 イラスト:花ヶ田
図書館やその書庫って、無限に階層が続いていそうで、覗いた棚の奥がいきなり別世界に繋がっていそうで、ぞわぞわ、わくわくしますよね……この書庫は本当に、扉の向こうは無限に続く別世界です。怪物も魔法も仕掛け扉もあります!
大丈夫死なない! 死なない? それがなにかの特務機関やら国家やらの秘密図書館ではなく、普通の学校の図書館書庫なのも最高です!
冒険、あるいは蔵書のお問いあわせ対応を楽しんでください!
『鉄コミュニケイション(1)ハルカとイーヴァ』
著者:秋山瑞人 原作・イラスト:たくま朋正 原作:かとうひでお
これは戦闘描写の教科書みたいな作品です。作家を目指す人に特におすすめ!
昔は入手困難でしたが今は電子書籍があるのがありがたいですね。
『恋は夜空をわたって』
著者:岬 鷺宮 イラスト:しゅがお
気分転換で配信を付けてみれば――なんだか聞き馴染みのある声が聞こえてくる。
喋っているのは後輩の女の子? しかも恋バナをしてる? さらに好きな相手は自分かもしれなくて――!? でも後輩は恋バナになんて興味なさそうだし別人? でも喋ってる内容は身に覚えのある出来事ばかり。
そんなじれじれラブコメ。面白いからおすすめです。
『こちら、終末停滞委員会。』
著者:逢縁奇演 イラスト:荻pote
異能で学園で青春で、多次元世界でこの世の運命がかかっていて、手に汗握る異能バトルを圧倒的な力こそパワーがなぎ倒したりと、お祭り感が最高です。
『こわれたせかいの むこうがわ ~少女たちのディストピア生存術~』
著者:陸道烈夏 イラスト:カーミン@よどみない
かわいい少女たちのしたたかなディストピアサバイバル――だけじゃない。鍵となる古いラジオを通して描かれる、教え学ぶ営みの輝き。第七章のタイトルが意味するものを知った瞬間には鳥肌が立つこと間違いなし! 読み終えたときにきっと大切なものを持ち帰ることができる一冊です。
『ステージ・オブ・ザ・グラウンド』
著者:蒼山サグ イラスト:ひのた
やきうの時間だあああああああああ!!!!!!
本企画において、幾つかの作品を私は自分なりに推薦させて頂きましたが、この作品に関しては完璧に自分の趣味で選びました。
『ステージ・オブ・ザ・グラウンド』、著者は蒼山サグ先生です。
表紙を見れば一発で分かると思いますが、本作は野球を題材とした小説となっております。
皆さんは野球ってお好きですか? 私は好きです。
では野球ラノベと聞いて、何を思い浮かべますか?
やっぱり若草野球部狂想曲でしょうか。ちょっと古いですね……こちらも電さんの作品ですが。
そんな中、蒼山サグ先生が野球ラノベを2016年に書き下ろしてくださった! こんなに嬉しいことはない!!
貴重な貴重な野球ラノベだ!!! うれC!!!
まあつまり要約すると、『野球ラノベ』って数が少ない!! 探せばあるけど、逆に言うとしっかり探さないとない!!
確かにスポーツと小説は相性が悪いことが多く、特に野球はマンガやアニメ、ゲームでは題材にしやすいものの、小説では表現しづらい部分があります。
普通に書いたら敵味方合わせてまずグラウンドに9人ずつ、両チームベンチを合わせればその倍以上の登場人物が必要なので。
そんなの文字媒体だと管理不可能です。作者ではなく、読者の理解が絶対に追いつかない。負担がものすごいので。
となると、ここで問われるのは作者の"技量"です。『野球ラノベ』である以上、『野球』は描くべきですが、しかし『試合』を正しく描く必要はありません。
そういう意味では本作はマジで平たく言ってしまうと、
"高校生三人が自分の学校の野球部に入部するために頑張るラノベ"
となります。
うーん……。そんなの面白いか……? 面白いんだよ!!!!!!!!!!!
それがつまり、私が呼ぶところの"裏の技量"です。
主人公とラスボスの最終決戦とか、ヒロインの告白からのキスシーンとか、それこそ甲子園決勝で化物投手相手に9回裏一点ビハインドツーアウト二三塁で主人公が打席に入るとか、『普通に書いたら面白くなるだろう』という場面は多くあります。
その場合は、100点を200点取るぐらい面白く書くのが、作者に求められる"表の技量"だと思います。
一方で"入部を頑張る"で、果たして面白く書けるでしょうか。普通は書けません。
そして書けてもせいぜい10点が限度なものを、しかし100点取るというのが、もう一つの"裏の技量"だと私は考えます。
本当に面白いものを書ける人は、この"裏の技量"が優れている――故に本作は面白いんですよ。
正直、私程度が蒼山サグ先生を評価する時点でおこがましいのですが、マジで先生は技量が高いです。
中盤までは、鬱屈した日常を過ごす幸斗(元捕手)と卓(元ショート)の日常描写が中心です。
この日常描写がまた巧みで……シンプルに言えば文章が上手いんですよね、蒼山サグ先生。
難しい言葉はあまり使わず、それでも読者に情景を想起させる書き方がすごいです。
(どうすごいかは実際に読んで確かめてみてください)
そんな中で、中盤から登場する剣(投手)が現れ、やがて三人の日常が"野球"を中心に動き出していく。
つまりは青春小説の側面があるわけです。そして当然野球『も』ある。
ただ素直に野球をやるわけじゃなく、別アプローチから一冊書き切るのはラノベの良いところだと私は思います。
マンガやゲームだとそうはいきませんから。
じゃあ肝心の野球はおざなりなのか!? っていうとそんなことはありません。
投手である剣は生まれつき右手中指が湾曲しており、それによって曲がりのエグいスライダーを投げられる。
ただし、それ以外の能力はあまり高くなく、また返球や送球が指のせいで逸れるという致命的な弱点がある。
更に特殊な軌道のそのスライダーは捕れる捕手がほぼおらず、制球にも課題があるものの、夢を見るには充分な『魔球』の持ち主。
じゃあその球を捕れるのは誰かっていうと、主人公である幸斗だけってわけ……。
幸斗は凡人ながら、"剣の球を捕る才能"の一点においては天才的である、という通好みの設定!!
迷った日も間違った日も、ライトは幸斗を照らしていたんだ!!!
というわけであまり言うとアレなのですが、幸斗の捕手としてのリードの駆け引きが終盤の"入部試験"で試され、打者と捕手の心理的な攻防のやり取りが面白いです。
野球はこういう心理戦が描けるから、小説には絶対に向いていない、とは言えないんですよね。
それ以外にも細かな伏線回収が光り、構成が非常に巧みな小説となっています。
まずもって捕手、内野手、投手の三人だけで野球の試合を描けるのか? という時点で疑問符がつきますからね。
そして当然本作は描けているので、そこがやはり『野球はするが、試合を正しく描く必要はない』に結実しています。
惜しむらくは入部試験で終わってしまうので、その後の彼らの活躍は拝めない、という部分でしょうか。
この一巻だけでも非常によくまとまっており、読後感はとても良いのですが。
やっぱりせめてあと一巻分くらいは読みたいのが正直なところ……。
おい電……分かってるな? 報復死球すんぞ
余談ですが、作中で剣のスライダーを『伊藤智仁選手』で例えたのがマジで良かったです。
プロ野球ファンなら分かるけど、知らない人はまず分からない絶妙なラインというか。
蒼山サグ先生のこだわりを勝手に感じました。あの高速スライダーは魔球なので……。
野球ラノベもスポーツラノベも、もっともっと増えていくべき!!!
ジャンルの多様性は常に確保されていて然るべき!!!
そういうわけで、野球ラノベの入門として本作を私は強くお勧めします。
面白いので是非!!!!
よろしくお願いします!!!!!!
『住めば都のコスモス荘』
著者:阿智太郎 イラスト:矢上 裕
二組のヒーローと、三組の宇宙人犯罪者が巻き起こすSFドタバタホームコメディ。
互いの正体を知らぬまま同じアパートで笑い、泣き、絆を深めていく。
お約束という名のパロディと王道ストーリー展開、登場人物の善良さは、懐かしくも温かい。
平易な文章は誰でも書けるようで、阿智太郎先生にしか書けない作家性を持つ。
だから私はこの人がデビューして以来、ずっと嫉妬し続けている。
『世界の中心、針山さん』
著者:成田良悟 イラスト:ヤスダスズヒト/エナミカツミ
魔法少女・殺人鬼・ヤクザとヒーロー・勇者に魔王と多彩なジャンルを捻りに捻った短編集。それを繋ぐ糸として立っている針山さんは本当の本当に「脇役」です。姿さえ出てこないときがあります。タイトルにいるのにそんなのありか!?と中学生の頃の私は驚愕しました。ありなのです。そんなポップでカオスなお話を楽しんで欲しいと思います。
『空ノ鐘の響く惑星で』
著者:渡瀬草一郎 イラスト:岩崎美奈子
ファンタジー全盛のいま、改めて脚光を浴びていい作品です。
王位を継ぐはずのなかった第四王子。
異界から来た謎の少女。
そして、男友達だと思っていた幼馴染——。
魅力的な主人公たちを核に描かれるのは、壮大な英雄譚。王位争い、異界からの侵略、世界の謎、交錯する人々の思い。怒涛のストーリーの果て、待っているのは完璧なハッピーエンド!
一気読み、いかがでしょう。
絶対に面白いので後悔はさせません。
『ツァラトゥストラへの階段』
著者:土橋真二郎 イラスト:白身魚
「オリビアたんはわたしが守る!」と叫んでいた中学生時代が懐かしいです。
土橋先生の書く文章や登場人物は、いつも淡白で淡々としているんですが、噛めば噛むほど味が出るんです。この絶妙な味が忘れられないので、何度も読み返してしまいます。
あと子どもの頃はまったく理解できなかったあとがきが、今読むとすんなり頭に入ってきたので、わたしも大人になったなぁ……としみじみしてしまいました。オリビアたんはわたしが守る!!
『どうせ、この夏は終わる』
著者:野宮 有 イラスト:びねつ
隕石衝突による滅亡が目前に迫る世界で、彼らはそれぞれ『最後の夏』を生きる。
なげやりに過ごす者、だからこそ懸命に生きる者、様々な考えのキャラクターが登場しますが、彼らはどこまでも等身大で。
恋や夢や後悔を抱えながら生きる姿は確実に、一瞬の煌めきを切り取った青春そのものです。
江戸川乱歩賞を受賞した野宮有先生の一冊。ぜひ手に取ってみていただきたいです。
『賭博師は祈らない』
著者:周藤 蓮 イラスト:ニリツ
『祈るな、勝ち取れ』
タイトル通り、主人公の賭博師ラザルスは神に祈らず、運否天賦に賭けの勝敗を預けない。
退廃的で冷笑的な賭博師が、ブラフやイカサマ、使えるものはなんでも駆使して、賭けの『景品』を手に入れていく。
そんなラザルスの、計算高くも情熱を失っていない生き方は、この作品に通底する雰囲気そのものだと思う。
重苦しいデカダンスが支配するロンドンで、クズを自嘲する賭博師が『景品』のために逆転するカタルシスは、唯一無二である。
寝る前の10分だけ読むつもりが、気づけば徹夜で読んでいた。
祈らないがゆえの格好良さ。皮肉めいた筆致の中に光る『諦めない』の熱いメッセージ。ぜひご一読を。
『とらドラ!』
著者:竹宮ゆゆこ イラスト:ヤス
迷った? 悩んだ?
それはきっと、恋をしたから。
傷ついた? 傷つけた?
それはきっと、誰にも譲れないものだったから。
伝わらなくて怒って、すれ違って泣いて、通じ合ったから笑って。
全力で、全開で、自分の全てを懸けて『お前がいい』と竜と虎が並んで吠える。
そんな咆哮が胸に響く物語は、青くて熱くて痛くて。
だけど捲ったページの果てに、あなたもきっと見つけられる。
優しくて、とても甘い。
世界が隠した、とっておきの宝物を。
『猫の地球儀 焔の章』
著者:秋山瑞人 イラスト:椎名 優
夜と霧と黴の世界「トルク」に生まれた二匹の猫、「焔」と「幽」。焔は最強を求め、幽は魂の燃え落ちる場所「地球儀」を目指します。
夢とは何か。夢があれば猫は幸せになれるのか。夢は猫にどんな代償を求めるのか。たとえ夢が己を焼き、世界を焼く呪いだとしても、それでも猫は夢を捨てられないのか──これは、そういうお話しです。
全てを犠牲にしても叶えたい夢が、あなたにはありますか?
『独創短編シリーズ 野崎まど劇場』
著者:野﨑まど イラスト:森井しづき
「電撃文庫一の異色作」と言っておそらく関係者から異論が出ないこの作品は、今は休刊している雑誌『電撃文庫MAGAZINE』で連載されていた短編小説……小説……? の総集編である。発売当初に私が紙で買った時には電撃文庫用に再編されていたが、今は電書で買うと当時の無法スタイルのまま楽しむこともできる。野﨑先生の迸る筆力……発想……純然たる力……? に満ち溢れた本作を是非お手に取って、電撃編集部の苦悩と懐の深さを味わって頂きたい。
『バッカーノ! THE Rolling Bootlegs』
著者:成田良悟 イラスト:エナミカツミ
昔、Mという友人がおり、彼の本棚で見つけたのが『バッカーノ!』との最初の出会いでした。
本の貸し借りは日常茶飯事だったので、「貸してくれ」と頼みますと、彼は頑なに嫌だと言う。
そして後日、自分で買って読んだ折に、Mの気持ちを理解しました。
「そりゃこんなに面白い本、自分だけのものにしてぇよなぁ……」と。
そんな“ぜひとも手に入れて、自分だけのものにしたくなる”程面白い物語です。未読の方はこの機会にぜひ。
『ヒトの時代は終わったけれど、それでもお腹は減りますか?』
著者:新 八角 イラスト:ちょこ庵
ディストピアな世界の中で、二人の少女がやたら旨そうな飯を作ったり食べたりする物語。簡単に言えばこうなのだが、本書は非常によく練られた設定と世界観が魅力をさらに増大させている。滅びた世界の片隅で食を通じて二人の少女が出会う人々たち、彼らを取り巻く組織や環境、そして謎の食材から作られる食事が生き生きと表現された物語だった。現実社会に疲れた我々の、一時のオアシスになる一冊だと思う。おススメです!
『紫色のクオリア』
著者:うえお久光 イラスト:綱島志朗
SF×百合の金字塔。
『紫色のクオリア』を書店で手に取ったのは、わたしがまだ作家になる前のことでした。
「万物の理論」「観測」「クオリア」という概念を駆使しつつ、宇宙全体を巻き込む物語は圧巻。
何より、その全てが少女二人の感情を基点にしていることに感動しました。
物語が収束する結末も、胸に染み入る美しさ。
作家になりしばらく経った今も、背中を追いかけ続けたいと願う名作です。
『妖精の物理学 ―PHysics PHenomenon PHantom―』
著者:電磁幽体 イラスト:necömi
当初、本企画は「一人一作品」「文字数短め」という条件だったのですが、真っ先に私は「一人で何作も選ばせて欲しい」「文字数多くして欲しい」とお願いしました。
何故かというと、何かを私情のみで推す場合、熱量とはそのまま文字数と見ていいからです。
あと一作品だけだと、電さんの数多くある名作を紹介するにまるで足りない……ということで、結果的に何作か選んでもいいしたくさん文字を書いていいよ、と承諾頂けました。優しいね電さんは、好きだよ(照) やっぱ嘘
というわけで一人一作だけなら私はこの作品を選ぶことはなかったのですが、何作か選べるので選びました。
企画の趣旨を鑑みると、2025年の大賞作品である『妖精の物理学』を推すのはちょっとズレているのは否めませんが、あえてこの作品を選ぶ方も居ないと思うので……。
なお私と電磁幽体先生の関係については、本作のあとがきに代えて私が寄稿しており、その文中に記載しておりますので、是非本作を買って読んだ後にでもお読み下さい。
さて、本作において、私は包み隠さず良いところ悪いところを述べようと思います。
あらゆる前提を取っ払った時に、果たして『妖精の物理学』は手放しで褒められる作品でしょうか。
手放しでは褒められません!!!!!!!!!!!
電撃大賞の評価項目をレーダーチャートにしたら、多分この作品は『くの字』みたいな形になります。
とにかく出来ている部分と出来ていない部分の落差が激しいです。
(改稿がなされなかったので仕方ないですが)
先に悪い部分を述べますが、後半に進むにつれてどんどん読みづらくなります。
作者の電磁幽体先生は異能バトルの戦闘シーンを書くのが好きであり、終盤は筆が乗った結果、己の書きたいものだけを優先したのだと思われます。
自分の書きたい部分と、リーダビリティとの塩梅を取るのがプロの面倒なところですが、その塩梅を取る前の段階での出版なので、やっぱり仕方ない……こともない!!
応募前の時点で客観的に見直ししろと言いたい!!
本作を読むといわゆる『目が滑る』状態になる方が多く発生すると思います。
どういうこと? と思った方は、是非実際に買って読んで確かめてみてください。
作家という生物は自分の文章に真っ先に陶酔する憐れな酔っ払いですが、氏はちょっと酔い過ぎたのでしょう。
しかし、作中に書かれている全ての文意を理解しなくても大丈夫です。
読みにくかったり、意味や意図が分からなくても、そのまま読み進めれば大丈夫です。
怒涛の造語やルビ、迂遠かつ冗長な言い回しで諦めないで下さい。
(ちなみに私の手元にある元データだと大量に傍点も打っているので、もっと読みにくいですよ)
翻って、では本作の良いところは、結局はその根底が非常にシンプルにまとまっていることです。
王道の物語が書きたくて、ボーイ・ミーツ・ガールが書きたくて、異能バトルが書きたくて、どこか抜けてるけどカッコいいキャラクターが書きたくて、あとおっぱいが書きたいとか、作者の地元の神戸を書きたいとか、 挙げれば色々あるのですが。
それら全部を強引に入れ込んだ上で、最終的には本質的に"優しい物語"となっています。
ヒネっているのは設定と地の文だけで、やろうとしていることは、いつの世も万人が求めている人の情緒の大枠、"優しさ"です。
だからこそ本作は、なんとなくでもいいから全部読めば、最終的に良質な読書体験に繋がっていきます。
意外と商業作品において、そのような作品は貴重だと私は思っています。
普通はここまで作者の我が強い物語は大体途中で破綻しますし、およそ電撃大賞に応募する人間は大なり小なり『受賞』を意識した上で、物語のベースを構築します。
それはつまり世間の流行や業界の隆盛ジャンルに創作が左右されるということで、本当の意味で自分のやりたいことだけで勝負するというのは、中々どうして勇気が必要で、とても難しいことなのかもしれません。
プロの方も、作家志望の方も、読者の方も、そのような勇気はありますか? 少なくとも、私にはありません。
そういう意味では本作は異質であると言えます。何故ならば電磁幽体先生は、受賞する気がサラサラなかったからです。
何なら『供養する』という意味で本作を応募したそうです。そんな奴が大賞を取るなと言いたいですね。
求める結果への無関心さと無欲さが物語の"熱量"に直結し、一周回って個性を放ったと考えれば、数奇で面白く思いますが。
大賞を取ったから嬉しくて泣く人間は多くとも、供養のつもりで送った原稿が想像以上の結果を己にもたらしたことによる焦燥で号泣する人間は、後にも先にも電磁幽体先生だけでしょう。
作品の背景を知らなくても、知っていても、とにかく本作はオンリーワンにしてワンオフな物語です。
そのような作品が世に出たことを悼みつつ祝いつつ、この企画の場をお借りして宣伝させて頂きました。
みんなも読もう、『妖精の物理学』!!



